黒いスーツをビジネスシーンで取り入れる際のマナーをご存じでしょうか?リクルートスーツに黒いスーツを選ぶ方が増え定番となった今、ビジネスシーンでも黒いスーツの着用は珍しくなくなってきました。「同じ黒いスーツだし、礼服として兼用で着回せるのでは?」と思っている方もいらっしゃるでしょう。
この記事では、黒いスーツと礼服の違いについて解説し、それぞれのシーンに適したスーツの選び方やコーディネート方法をご紹介します。
黒色は、冠婚葬祭用に作られた礼服にのみ使われていたカラーです。リクルート用に黒いスーツが選ばれるようになり、いつしかビジネスシーンにも黒のスーツの着用が増えていったという背景があります。
礼服・ビジネススーツ・リクルートスーツに、同じ黒色が用いられているため着回しても問題ないだろうと思われがちですが、それぞれ用途が異なります。
黒のスーツをビジネスシーンで着用するのは、実は日本特有の文化です。海外では、ビジネスシーンで黒いスーツを着用する文化はないため、海外で仕事をする機会がある場合や、外資系企業などの場合には、着用を控えたほうが無難です。
黒いスーツは、一般的な日本企業の場合においても賛否両論、意見が分かれるところです。
本来、黒いスーツは、冠婚葬祭のために作られたものです。モーニングやタキシード、喪服などフォーマルシーンでの正装に使われるカラーであり、ビジネススタイル向けではありませんでした。
しかし、近年の就活時のリクルートスーツはブラックが主流となっており、新入社員が研修を終えるまでは、そのままリクルートスーツを着用する方が多くなっています。その影響から、黒のスーツがビジネスシーンにも取り入れられるようになったと考えられています。
ビジネスシーンで黒のスーツを着用する場合には、基本的なマナーやグローバルな観点の理解、会社の社風などを考慮することが大切です。
「黒いビジネススーツを、礼服として着回ししても問題ないのでは?」と考える方もいらっしゃるかもしれません。
ビジネスシーンで着用する黒のスーツと、冠婚葬祭用に作られた礼服には違いがあります。生地やデザインの違いについて解説します。
生地の色の濃さや素材、光沢感などが異なります。
礼服の色は漆黒で黒に深みがあり、黒のビジネススーツは礼服と比べるとグレーっぽく見えます。礼服のように黒の深みを出すためには、糸の染色を繰り返したり高品質な素材を使用したりするためコストもかかり、黒の深みがあるほど高級な礼服となります。
従来までは、礼服にはウール100%のものが使われるのが一般的でしたが、ストレッチ性や防シワ性などの利便性や低価格での生産を考慮して、天然繊維のウールにポリエステルが混紡されている製品も増えてきております。
また、礼服の生地は光沢が抑えられマットな印象ですが、その一方で黒のビジネススーツは艶やかな生地が使われることが多いです。
全体的なシルエットやディテールなどデザインも異なります。
礼服は使用頻度も少ないため、一着を長年使用できるように配慮されています。体型やトレンドの変化に影響されないよう、ゆったりしたシルエットが一般的です。
ビジネススーツの場合にはトレンドによってタイトなタイプもあり、時間が経つと「なんだか似合わなくなった、流行遅れかな?」と感じることもあります。
ディテール部分に関しては、ラペルと呼ばれる下襟部分に、礼服の場合には先端が尖っている「ピークドラペル」、黒のビジネススーツには真っ直ぐ伸びた「ノッチドラペル」が使われています。
ビジネススーツの場合にはジャケットはシングルが一般的ですが、最近では礼服の場合、年齢や体型などでダブルとシングルを選択される傾向にあります。
ジャケットの裾の切れ込み部分である「ベント」にも違いがあります。礼服はベントがなく「ノーベント」が一般的ですが、ビジネススーツは動きやすさを考慮して、真ん中に切れ込みが入る「センターベント」や両サイドに切れ込みが入る「サイドベンツ」が一般的です。
黒のビジネススーツと礼服には上述したとおり明確な違いがあります。そのため、基本的には代替はしないほうが無難です。
ビジネススーツは礼服に比べると光沢感のある素材が使われることが多いため、葬儀の場では黒色であっても相応しくありません。
一方、通夜の場合には「急いで駆けつける」という意味から、礼服ではなく暗めで控えめな服装で問題ないとされています。そのためビジネススーツの参列も可能ですが、黒や濃紺など暗めの色で、無地で光沢のないものを選びます。シャツは白、ネクタイとシューズは黒と、葬儀と同じ装いのものを合わせます。
結婚式や披露宴の場合にも礼服を着用するほうが良く、新郎新婦の親族が礼服を着用している場合は自分だけビジネススーツだと目立ってしまう可能性もあります。しかし、友人の結婚式の場合やカジュアルスタイルの会場の場合には、黒のビジネススーツやダークカラーのスーツでも良しとされています。新郎よりも派手にならないよう注意しつつ、ビジネスライクにならないようにネクタイやチーフで華やかなコーディネートを心がけましょう。
黒のスーツをビジネスシーンで着用するのは日本特有の文化であり、着用するシーンに注意すべき点はあります。しかし、黒色のスーツはフォーマル度がもっとも高いカラーであるため、スマートで真面目さや誠実さといったイメージを与えられます。
ストライプやチェック柄などを取り入れても黒でしっかりと引き締めてくれるため、カジュアルになりすぎません。
また、もっとも落ち着きのある色であるため、ネクタイやシャツのコーディネートがしやすいといったメリットがあります。カジュアル度の高い柄や色を合わせても黒でバランスが取りやすいため、コーディネートが難しくないのが魅力のひとつです。
ビジネス、リクルート、冠婚葬祭、それぞれ黒いスーツを着用する際の選び方と注意点について解説します。
黒のスーツをビジネスシーンで着用する場合には、礼服を連想させないような着こなしが大切です。生地には、柄や織柄のものを選んだり、合わせる小物類を工夫したりすることで、ビジネスシーンでも黒のスーツを着こなせるようになります。
就活時のリクルートスーツに無難な色としてブラックを選ぶ方が多く、濃紺やダークグレーのカラーもリクルートスーツに使用できます。
リクルートスーツでは柄や織柄は避けて無地のタイプを選び、基本に忠実なデザインを選ぶと良いでしょう。ジャケットはシングルの2つボタン、パンツはタックのないものが好印象です。
リクルートスーツは初めて会う方に好印象なイメージを持ってもらうためにも、サイズ感は重要です。店員さんにきちんと採寸してもらい、相談しながらジャストサイズを選ぶようにすると良いでしょう。
スーツのサイズ感は、肩幅、ウエスト、ヒップライン、着丈、裾丈など見るべきポイントがたくさんあります。学生の場合はスーツを着慣れていないため、どのサイズ感が適切か自分で判断することは難しいです。おさがりでのいただきものや、オンラインでの購入にも注意しましょう。
葬式の場合には礼服を着用するのがマナーで、ビジネスで着用する黒のスーツは避けます。そのため、礼服を一着持っておくと良いでしょう。
上述した礼服は冠婚葬祭で着用できます。葬式の場合に着る礼服は喪服といわれますが、男性の礼服の場合にはネクタイを変えるだけで着回せます。
礼服を選ぶ際のポイントとして、黒色が濃く深みのあるもので、光沢のないマットな生地を選びます。安価なタイプもありますが黒色の深みがなくビジネススーツに近い黒になるため、長年の着用を見越して、良質なものを選べるよう素材にこだわると良いでしょう。
流行に左右されないスタンダードなシルエットを選ぶと長年愛用できます。そして、オールシーズン着用できるものを選べば、季節を気にすることもありません。
また、長年の着用を想定し体型の変化にも対応できるようにウエストアジャスターがついているものもあります。
礼服を一着持っておけば結婚式でも着まわせて、しっかりとした印象を与えられるため、大変便利です。
深みのある黒色の生地にこだわり、流行に左右されないシルエットが大切です。
特に結婚式の場合には5年後、10年後先に自身の立場も変わり、職場の上司として参列する機会もあるかもしれません。あまりに高価なものを購入する必要はありませんが、安価すぎるのもおすすめできません。生地の素材の違いや風合いを確認するようにしましょう。
黒のスーツをビジネススタイルに取り入れる際のコーディネート術をご紹介します。
黒いスーツに合わせるシャツは明るいカラーがおすすめです。清潔感や真面目な印象を与えられ、顔周りが明るくなります。白いシャツが基本的に合いますが、フォーマル度が高くなり冠婚葬祭やリクルート活動のイメージが強くなるため、薄めのブルーやピンクのシャツを合わせるとビジネスパーソンらしくこなれ感が出ます。
あまりに色味の濃いシャツを選ぶとコントラストが強くなるため、着用するシーンには注意したほうが良いでしょう。
ストライプシャツなどの柄物はカジュアル度がアップしますが、ブラックカラーのフォーマル度がうまくバランスを取ってくれるため合わせやすく、クールな印象にまとまります。
ボタンの色やステッチのデザインが入っているシャツも取り入れやすいでしょう。
ビジネスシーンでの黒のスーツは柄物を選んで抜け感を出すのがおすすめです。黒いスーツは重くなる印象ですが、柄が入っていると軽やかさが加わり重くなりすぎません。
ストライプやチェックなどの柄は色が明るかったりラインが太かったりするとカジュアル感が増しますが、シャドーストライプやピンストライプであれば派手になりすぎず、ビジネスシーンでの程良いコーディネートが可能になります。ウィンドペンやグレンチェックなどの伝統的なチェック柄もカジュアル感を抑え、クラシカルな印象を与えてくれます。
一見無地のようにも見える織柄も上品なオシャレを楽しめます。
黒のスーツにはビジネス向きの柄や織柄を取り入れてみると良いでしょう。
黒いスーツに黒のネクタイは喪服を連想させますが、スーツやネクタイの光沢感や柄のデザインにアレンジを加えると、モノトーンコーデでまとまります。
柄や光沢感のバランスでビジネススタイルとしてかっこよくまとめるのは上級テクニックですが、あえて色を使わないことで、シックな雰囲気かつ個性派のアレンジを演出できます。
ワイシャツやネクタイにダークネイビーなどのダークトーンカラーも相性抜群です。一気にイメージが変わるため、ぜひチャレンジしたいコーディネートです。
ネクタイのカラーや柄で、華やかなコーディネートを目指すのもおすすめです。黒はシンプルなカラーのため、どのようなカラーでも合わせやすく、コーディネートに悩む心配がありません。ネクタイによって印象づけたいイメージや季節感を出すことができます。
ブルーは爽やかでフレッシュな印象を、赤は行動力のある印象を与えられます。黄色や緑などの明るいカラーは華やかな印象を与えられます。
ビジネススタイルのネクタイの柄は基本的にストライプやドット柄が普段使いしやすいです。コーディネートが難しい色や柄物のネクタイも黒いスーツであれば、差し色として活躍してくれます。
合わせるワイシャツの襟型にも注意しましょう。黒いスーツには定番の衿型のシャツを合わせるのがおすすめです。
衿型のデザインにはラウンドカラーやボタンダウンなどがありますが、いずれもコーディネートしづらくなります。ラウンドカラーは衿先が丸く、柔らかな印象になります。ボタンダウンはスポーティなイメージがあり、ボタンによってカジュアル感もでるため、どちらもシャープなブラックカラーとは相性がよくありません。
レギュラーカラーやセミワイドカラー、ワイドカラーなどシンプルで定番な衿のワイシャツを選びましょう。
スーツとシューズの色味は統一させることが基本です。
黒いスーツに黒のシューズを合わせるとまとまりの良いコーディネートが可能で、ワイシャツやネクタイのバランスも困る心配がありません。大人の品のある印象になります。
シューズのブラックは、マットなタイプだとビジネスシーンでも問題なく定番に履きまわせます。艶のあるタイプは華やかさが生まれ、エレガントな印象を与えられます。
黒のシューズは形状や質感の違うタイプを数足持っておくと、さりげないコーディネートのアレンジが可能になります。
就職活動においてリクルートスーツの着こなしはもっとも注意すべきポイントです。特に面接の場合、第一印象を左右し短い時間でのやりとりとなります。しっかりと志望動機やビジョンを伝えられたとしても、印象がマイナスであれば合否に影響しかねません。
リクルートスーツでの注意点をご紹介します。
リクルートスーツに合わせるワイシャツの色は、原則白色です。ビジネススーツの場合、白以外にもカラーや柄物を取り入れますが、就活中は白以外は選ばないようにしましょう。
また、白色のワイシャツでもカラーボタンやステッチが入っているデザイン性の高いものは避け、シンプルな白一色のものを選ぶのがポイントです。
ブラックスーツとホワイトシャツの組み合わせは冠婚葬祭のイメージが強くなるため、フレッシャーズに相応しいブルーやエンジのネクタイを合わせると良いでしょう。
スーツのポケットには基本的に何も入れないようにしましょう。ポケットに物を入れると膨らんで見えたり左右が偏ったりして、スーツのシルエットが崩れだらしない印象を与えてしまいます。また物を入れるとスーツの生地が傷む原因にもなります。
スマートフォンや財布、メモ帳などはカバンにしまっておき、ポケットには何も入れないようにします。
ちなみにスーツのポケットにはフラップと呼ばれるフタがついています。フラップはホコリや雨が入らないようにする役割があり、屋外では出しておき、屋内ではしまっておくのがマナーです。ポケットに物が入っていて、屋内でフラップがしまえないことがないようにする必要もあります。
リクルートスーツは短期間での着用が想定されているため、安価で購入しやすい分、耐久性が低いものも多く、シワになりやすいといった特徴があります。
リクルート中は会社説明会の参加や面接を受ける機会も頻繁にあるため、スーツにシワが入りやすくなってしまいます。
そのため、リクルートスーツの場合にも快適に着こなせるよう、シワになりにくい加工が施されているものを選ぶと良いでしょう。
特にブラックカラーは繊維の風合いもわかりやすいため、あまりに安価なものを選ぶとチープさが出てしまうので注意が必要です。
黒のスーツを結婚式で着用する場合の注意点について、ゲストとして出席する場合と新郎に分けて解説します。
結婚式にゲストで参加する場合には白いワイシャツが基本です。ワイシャツの白はもっともフォーマルなカラーです。
友人の結婚式などの場合であれば薄めのブルーなどを合わせることも可能ですが、黒のスーツには白いワイシャツを合わせることがほとんどです。他のカラーを選ぶと浮いてしまう可能性があり、コーディネートに注意が必要です。
白いワイシャツは汗や皮脂の汚れが落としきれず、久々に着用しようとしたら黄ばみが目立つということもあります。着用する機会がある場合には前もって状態をチェックしておくようにしましょう。
一方、新郎の場合にも黒のスーツであれば白いワイシャツが合わせやすいです。光沢の美しい素材のワイシャツが華やかで主役の気品を演出できます。
ネクタイは結婚式の場では白やシルバーカラーがフォーマル度が高く、基本のカラーとなります。礼服に合わせられるよう、白やシルバーのネクタイを一本持っておくと便利です。光沢のある素材や華やかなデザインが結婚式らしいですが、新郎よりも目立つのはよくないため、ビジネスシーンよりも華やかさやエレガントさを意識するとよいでしょう。シルバーのネクタイはビジネスシーンにも活用できます。
一方、新郎が黒のスーツを着用する場合、主役級の華やかなネクタイを選びましょう。色は白やシルバーが定番ですが、生地感や柄など上品で高級感のあるものが新郎らしさを演出してくれます。
礼服にポケットチーフやカフスリング、ネクタイピンなどのワンポイントのアクセントを加えることで、一気に華やかさがアップし、結婚式を彩るスタイルに早変わりします。
グレーなどのベストを着用するのもフォーマル感がアップし、普段とは異なるスタイリングが楽しめます。
シューズは艶のあるものを選び、ベルトは太いタイプだとカジュアル度が増すため避けましょう。
新郎の場合、小物使いは新婦のドレスやブーケなどに合わせるのがベターです。また、お色直しでは新婦だけ着替えて新郎は小物だけアレンジするパターンも多いようです。新婦のカラードレスとチーフの色を合わせる、蝶ネクタイに変えるなど小物使いがコーディネートのアクセントになります。
葬式では、ビジネス用の黒いスーツではなく、礼服を着用します。
親族や一般参列者の場合は通常の礼服を着用しますが、喪主のみモーニングを着用する必要があります。
ワイシャツは白の無地で、ワイシャツの定番素材であるブロード生地を選べば間違いありません。衿型もシンプルなレギュラーカラーやワイドカラーが基本です。
ネクタイは黒の無地で光沢のないものを選びます。黒色であっても柄が入っていたり光沢のあるものは相応しくありません。礼服と同じく、ワイシャツやネクタイもビジネスシーンで使うものとは分けて、専用のものを一式揃えておくと良いでしょう。
黒いスーツをビジネスで着用するマナーや、礼服やリクルートスーツとの差別化、それぞれのスーツの選び方や注意点、コーディネート術について詳しく解説いたしました。
男性にとってスーツは着用の機会が多いものの、シーンに合わせて選ぶ必要があったりコーディネートに注意したりする必要があります。それぞれのルールを把握して使い分けなければ、その場に相応しい装いから外れる可能性もあるため、しっかりと基本を理解しておくと良いでしょう。