スーツのシルエット選びは印象を決める要素のひとつとして広く知られるようになりました。もう一歩踏み込んだスーツ選びをするために、生地にもこだわってみるのはいかがでしょうか。スーツ生地には繊維の違い、織り方の違い、柄の違いなどがあり、生地によって着心地や相手への印象が変わります。
清潔感や重厚感、上品さなど、自分の好みのイメージに近づけるためには「適切な生地選び」が欠かせません。この記事では、スーツ生地の種類や失敗しないための選び方について解説します。
スーツを着用したときのシルエットだけでなく、スーツの生地にも目を向けることでスーツ選びをより楽しめるようになります。スーツの生地には天然繊維であるウールやコットン、化学繊維であるポリエステルやナイロンなど、種類が豊富です。
糸の織り方の違いで見た目の印象も変わります。スマートな印象を与え、エレガントな雰囲気を演出するなど、生地選びはまわりの人への印象に大きく影響します。さまざまな生地がある中、適切な生地の選び方ができるようになると、着こなしにも自信がつくはずです。
冬に暖かく、夏は涼しく着られる生地、耐久性がありシワになりにくい生地、上品な艶がありしっとりとした肌触りの生地など、スーツの生地選びは快適な着心地にもつながります。
反対に、生地選びを間違えると安っぽく見えてしまうケースもあります。しかし、高級な生地であればすべての問題を解決できるわけでもありません。高級な印象を与える天然繊維を選んだとしても、着用条件やお客様のライフスタイルによっては着心地が悪く感じる場合もあります。
また、高級素材の中にはケアの難しいものも存在し、中にはシワになりやすいものもございます。生地によってメリットやデメリットは異なるため、それぞれの特徴を把握して自分に合った生地を選ぶことが重要になります。
スーツ生地の素材は大きく分けて天然素材、化学繊維の2種類あります。天然素材というと高級品で見た目も良く、環境にもやさしいイメージを持たれるかもしれませんが、着用条件によっては耐久性が低く、シワになりやすいデメリットがあります。
どの素材にも強みと弱みがあるため、それぞれの素材の機能を補えるように混合素材になっているスーツもあります。素材ごとの見た目の特徴やメリットやデメリット、着用季節について紹介します。
風合いが良い素材です。
ウールは羊から採れる天然繊維で、繊維の中に多くの空気を確保でき、保温性の高い素材です。柔らかな肌触りのメリノウールや保温性の高いタスマニアウールが代表的な品種です。
ウールの繊維は細く、見た目には上品な艶があるのが特徴です。ウールは熱伝導率が低いため保温性に優れ、吸湿性も高いため、夏でも涼しく着ることができます。伸縮性も兼ね備えているため、シワになりにくい特徴があります。
しかし、水で縮んでしまうため、水洗いには不向きで、虫食いが起きやすいデメリットがあります。着用季節としてはオールシーズンで可能ですが、冬向けのスーツに使用されることが多いです。
木綿の種からとれる種子毛がコットンと呼ばれる天然繊維です。国土が狭い日本ではコットンの生産量は極めて少なく、インドや中国で生産されたものが輸入されています。合成化学物質の使われていない農地で合成化学肥料を使わず育てられたコットンは、地球に優しく人の健康を守るオーガニックコットンとして認知されています。同じ天然繊維のウールに比べてカラーバリエーションが豊富な点がコットンの特徴です。
コットンは耐久性や耐熱性に優れているため、普段のお手入れもしやすいことが特徴です。ただし、天然繊維であるため水洗いで縮んでシワになりやすく、色落ちしやすい点には注意が必要です。着用季節としてはオールシーズンで季節を選びませんが、夏にも涼しく着られます。
リネンは麻のことを指しており、綿以外の植物繊維は麻に分類されます。セルロースが主成分であり、肌触りが良く防虫効果も期待できます。光沢感が適度に抑えられており、上品な生地でもあります。
リネンのメリットは吸湿性や発散性に優れ、繊維に含まれるペクチンの効果で汚れが落ちやすい特徴があります。植物繊維のためシワになりやすいデメリットもありますが、エイジングを楽しむという捉え方も可能です。
また、伸縮性が低いため、ほかの合成繊維と混紡するケースもあります。リネンスーツは夏の着用がおすすめですが、保温機能もあるため春先から秋のはじめまで着用可能です。
上品さや高級感、華やかさを演出できる生地の代表といえばシルク(絹)です。シルクは蚕の繭から採れる植物性天然繊維であり、自然で美しい光沢で人間の肌とも相性の良いのが特徴です。
また、見た目と肌触りの良さだけでなく、紫外線もカットしてくれる点はシルクの大きなメリットでもあります。吸湿性や放湿性に優れて着心地が良く、静電気が起きにくい生地です。ただし、耐久性が低いため摩擦に弱く、水に濡れると縮む傾向があります。着用する季節は春から夏にかけてのシーズンが多いです。
繊維の宝石とも呼ばれるカシミヤは中国北西部やモンゴルのカシミヤヤギから採れる動物性天然繊維です。カシミヤヤギのアゴからお腹にかけての柔らかい毛のみで作られるため、希少価値が高く高級品として扱われます。上質な艶とふんわりとした肌触りが特徴の生地です。
ヤギの油脂でコーティングされた繊維は滑らかな肌触りに仕上がり、薄くて軽く、保温性の高い生地でもあります。デメリットとしては耐久性がなく、毛玉ができやすい特徴があり、伸縮性も低い点があげられます。カシミヤヤギを冬の厳しい寒さから身を守る繊維であるため、秋冬での着用がおすすめです。
扱いやすく天然繊維のデメリットを補完する役割を担います。
ペットボトルの原料でもあり、耐久性が高いのがポリエステルの強みです。天然繊維の虫食い予防として混紡に使用されます。耐久性があるため型崩れしにくく、石油原料であるため耐水性に優れています。反発力があるため耐シワ性があり、色落ちしにくい特徴も兼ね備えています。ただし、通気性はないため、保温性に優れますが夏の使用時は蒸れの原因となります。
また、吸湿性が低いため、ニオイやカビの発生には注意が必要です。そして、静電気を帯びやすいです。着用季節はオールシーズンで、夏は洗濯してもシワになりにくく、冬は暖かく着られます。
伸縮性があり動きやすいストレッチスーツが日常使いに最適と注目を集めています。ストレッチスーツに使用されるのはポリウレタン繊維が多いです。ポリウレタンの最大の特徴が伸縮性の高さで、タイトなシルエットでも動きやすさを実現します。シワになりにくく、身体の変化にも適応しやすいメリットがあります。
デメリットとしては耐久性が低い点で、紫外線や水分に弱い側面があります。また、繊維が伸びると伸縮性が失われるため、長年の使用で機能が劣化する恐れがあります。オールシーズンの着用が可能です。
ナイロンはポリエステルやポリウレタンと同様に石油を原料とした合成繊維です。軽量で伸縮性があり、摩擦や曲げに強い特徴があります。ナイロンはストッキングにも使われる素材で伸縮性が高く、綿の10倍と言われるほどの耐久性を誇ります。
また、軽量で速乾性が高いため、お手入れがラクなことがメリットです。しかし、吸水性が低いため蒸れやすく、静電気が起こりやすいといったデメリットもあります。また、日光により変色・変形しやすいため扱いには注意が必要です。夏場の使用は蒸れやすいため、秋冬での着用がおすすめです。
スーツの生地は素材だけでなく、織り方によっても、耐久性や光沢、表面の滑らかさに違いが生まれます。織物のほとんどは3つの織り方から成り立っており、三原組織と呼ばれています。
三元組織は平織、綾織、朱子織です。また、三元組織とは別に、コーデュロイという織り方もあります。それぞれの織り方の解説と、織り方による見え方の印象の違いをご紹介します。
経糸と緯糸を1本ずつ交差させた織り方が平織りです。プレーンとも表現され、糸の交差する点が多いのが特徴です。糸の交差が多いと表面の凹凸がなくなり、生地にハリが出て丈夫な生地に仕上がります。
平織りの生地は硬く耐久性に優れており、摩擦に強いメリットがあります。糸同士の隙間が多く通気性に富んでいますが、伸縮性のない点がデメリットでもあります。生地の表面は左右対称で縦横直角の線が見えます。
生地を折る際にタテに伸びる経糸と、ヨコに伸びる緯糸を2本ずつ抜かして交差させた織り方が綾織です。ツイルとも表現されます。綾織は生地の表面に斜めの線が入ったように見えるため、斜文織りとも呼ばれています。
経糸と緯糸を1本ずつ交差させる平織りよりも耐久性に劣りますが、柔らかく艶のある生地に仕上がるのが特徴です。糸と糸の密度が高くなる織り方で、厚手の生地を織る際に適している方法です。伸縮性がありシワになりにくいメリットもあります。
経糸もしくは緯糸を4本飛ばして、最後の1本のみを潜り込ませ交差させる織り方が朱子織です。英語ではサテンとも表現されます。4本飛ばしと1本の潜り込みを組み合わせたものは5枚朱子と呼ばれており、8枚、10枚、12枚など種類が多くあります。数字が大きいほど生地表面に艶が出るのが特徴です。
朱子織で織られた生地は高級感のある光沢を表現できるため、フォーマルウェアやネクタイなどに使用されます。朱子織の特徴は柔軟性があり滑らかな生地に仕上がり、複雑な絡みがなくキレイに垂れてくれる点にあります。繊細であるため強度が低く、シワが目立つため取り扱いには注意が必要です。経緯片方の糸のみが表面に現れ、綾目が目立たない滑らかな見た目になります。
コーデュロイはパイル織物のひとつで、三原組織には属しません。タオル生地のように、表面にループを形成する織り方をします。コーデュロイは生地の表面で形成したループをカットして仕上げます。タオル生地に使われる通り、コーデュロイの大きな特徴は柔らかさにあります。立体感のあるふくらみを表現でき、保温性が高いため、秋冬の定番となっています。
コーデュロイは光沢感があり、摩擦に強いなどメリットの多い織り方です。ぬくもりを感じさせる柔らかな見た目に生地を仕上げたい場合に、コーデュロイが用いられます。
素材や織り方でスーツの見た目や着心地が変わりますが、第一印象はスーツ生地の柄が大きく影響します。
無地のスーツは生地全体が一色で統一されており、柄のないシンプルなデザインです。
色や柄のあるワイシャツやネクタイと合わせやすく、一着は持っておきたいスーツとされています。
無地のスーツの最大のメリットはシーンを選ばずに活用できる点にあります。色の濃淡や素材で印象は変化し、ブルーなら清潔感、ツイードを素材として使用すれば暖かみを表現できます。コットンであれば、汗をかきやすい春夏でもじめじめとした印象を与えません。ネイビーの生地は上品で知的、グレーやブラックなら落ち着きやエレガント、ブラウンは安心感のある印象を与えます。
ストライプのスーツは2色以上の縦や横、斜めの縞模様のあるデザインです。生地にシンプルなデザインが加わることで、華やかさや上品さを演出できるようになります。ストライプにも複数のデザインがあり、着用シーンや与えたい印象によって使いわけます。
種類が豊富で無地と同様に定番デザインとして人気ですが、着こなしに抵抗感のある方もいるかもしれません。スーツ、ネクタイ、ワイシャツのいずれかひとつを無地に、そのほかを柄で合わせる一無地二柄、ストライプスーツと無地のネクタイに無地のワイシャツを合わせる二無地一柄など、基礎に沿って着用することで違和感のない着こなしが可能になります。
チェック柄はストライプよりも着こなしのハードルが高く感じられるデザインではあります。しかし、ポイントを押さえれば、プライベートはもちろんビジネスシーンでもチェック柄をオシャレに着こなせるようになります。チェック柄には以下のような種類があります。
スーツはキチっとした印象になりますが、同時に堅い印象にもなってしまいます。チェック柄を取り入れることで、打ち解けやすい雰囲気がつくられます。チェック柄のスーツはカジュアル感が強くなるため、シーンによっては無地のワイシャツでデザインを引き締めるのがよいでしょう。
ネクタイは無地でスーツの色味に合わせて変化させます。グレーのチェック柄スーツにネイビーのネクタイ、スーツと同系色のネクタイなどがおすすめです。
ヘリンボーンはニシンの骨を意味する言葉です。遠くからだと無地のスーツにも見えますが、近づくと小魚の骨のような織り目が見えてきます。光の加減でストライプにも見えるのが特徴です。生地に使う色味は一色ですが、織り方でストライプ柄を生み出す「織り柄」と呼ばれる技法が用いられます。さりげないオシャレを取り入れたい人におすすめです。
ヘリンボーンの生地は耐久性があり、シワがつきにくい柔軟性もあります。細い糸で作られた生地ほどよりフォーマル感が高まるため、ヘリンボーンスーツ自体が比較的フォーマルな装いになります。細かい柄のヘリンボーンスーツは式典や行事で着用し、大きな柄のヘリンボーンスーツはビジネスシーンで使用するとクラシカルな印象を与えます。
自分好みのスーツ生地を選ぶ際にチェックすべきポイントをご紹介します。
袖をつかみ、ソフトな肌触りだと良い生地とされています。イタリア製の生地は柔らかくて上質な光沢が特徴で、イギリス製の生地は厚みがあり丈夫です。日本製の生地は滑らかさがありながら耐久性が高い特徴があります。
高級なスーツは上品な光沢感のある生地を使用していることが多いです。シルクなどが織り込まれていると高級感のある光沢に仕上がり、シルクが含まれる割合で光沢感に違いが出てきます。同色のスーツを見比べてみると、光沢感の違いを確認できるはずです。
天然繊維はシワになりやすく、化学繊維はシワになりにくい傾向があります。シワになりにくいスーツにはウールやポリエステルなどの合成繊維が混紡されているため、使用されている繊維の割合も確認しておきます。
特にポリエステルはシワに強い特性があり、高級生地にも使われるケースが増えています。袖をつかみ、シワがすぐに戻るかをチェックします。他にも背中やパンツなど、シワのできやすい箇所をチェックするのがおすすめです。
伸縮素材を使ったストレッチスーツが増えています。ストレッチ性の高いスーツを着用すると、歩く・腕を上げるなどの動作がスムーズになります。長時間の着用でも身体に負担がないのが特徴です。
また、ウエストにゴム機能が付いたウエストシャーリングがあると、腰まわりのつかえる感覚が解消されます。肩まわり、腕まわり、膝まわりの動かしやすさを確かめましょう。通勤で毎日歩き、自転車や電車を利用する場合はストレッチ性能や動いたときの着心地をチェックします。
スーツは日頃のケアを怠ると見栄えが悪くなり、清潔感が失われてしまいます。しかし、スーツのお手入れをどうすれば良いかわからない、クリーニングに出すのは費用がかかるし面倒というのが多くの方が抱える悩みでもあります。
そんな方におすすめなのが、手軽にスーツの清潔感をキープできるよう、丸ごと洗濯機で洗えるスーツです。種類によってはシャワーで汚れを落とせるものもあります。市販の洗剤を使用し、自宅の洗濯機でスーツの汚れを落とせるため、手間がかかりません。洗えるスーツは速乾性にも優れているため、出張先のホテルで汚れを落として室内干しをするなど、簡単にお手入れができます。
スーツには主にオールシーズン用、春夏用、秋冬用があり、季節ごとに使いわけます。オールシーズン用は適度な通気性と保温性があるため、年間を通して着られるスーツです。普段スーツを使用しない人でも、必要なときにいつでも着られる利便性があります。耐久性のあるポリエステル、伸縮性の高いナイロンを使用したものがおすすめです。春夏用は通気性が良く、明るい色味が特徴的で、清潔感のある印象を与えます。通気性に優れたコットン、清涼感のあるリネンが使われることが多いです。秋冬用は保温性が高く、シックな色合いのものが多く、上品さを演出できます。保温性が高いカシミヤ、滑らかな肌触りのウールが良いでしょう。
艶の有無やどのような素材感がおすすめか、生地の柄、色の選び方などシーン別の選び方をご紹介します。
ビジネスシーンは清潔感や落ち着き、誠実さを印象づけたいシーンです。サイズ感で身だしなみを整え、素材感で与えたい印象を演出します。派手すぎず、それでいて堅くなりすぎない生地選びが重要です。艶の有無は艶をおさえて落ち着きを演出し、素材感は季節に合わせた素材を選びます。
生地の柄は無地もしくはピンストライプがおすすめです。色についてはブラック、ネイビー、グレーが定番カラーです。
カジュアルなシーンではスーツだけでなくジャケットスタイルを選ぶ人も多くいます。スーツは上下揃ったデザインですが、ジャケットスタイルの場合は上下で色味や素材を変えてオシャレを楽しめるメリットがあります。艶の有無については艶があると上品な印象になります。
ウールをベースにコットンやリネンを使用すると素材感に違いが出ます。生地の柄はスーツであればペンシルストライプやチェックだと印象が強くなり、ジャケットの場合は無地の艶なしがおすすめです。色はアースカラーやネイビー、ブラウンなどをベースとし、差し色としてカラーアイテムを採用します。
結婚式のスーツといえば光沢のない深い黒色のブラックスーツがマナーとされています。ただし、ブラックスーツは礼服と呼ばれ、親族など主賓に近い方が着用するため、ゲストの場合は親族より格を下げてダークスーツを選ぶケースも多くあります。
艶のないものを選び、素材感は深い黒色のブラックスーツを着用します。普段使いのスーツと兼用ならダークスーツを選びましょう。生地の柄は無地もしくはシャドーストライプで上品さを加えます。色はブラック、もしくはネイビーを選ぶと良いでしょう。
黒いスーツに黒いネクタイを着用するのが葬式に参列する際のマナーです。ただし、葬式で着用される黒はビジネススーツで使われる黒よりも深みのある漆黒を選んでください。そして、艶のない無地の生地を選びましょう。
スーツの生地選びは身だしなみの印象を大きく左右する要素のひとつです。季節に合っていない生地や場所に合っていない生地を選ぶと、印象を下げてしまう恐れがあります。記事内でご紹介したスーツ選びの基礎的な知識を身につけておけば、不要なマイナスイメージを避けられます。スーツを着用するシーンに合わせつつ、自身の個性を活かせるようなスーツ生地選びをぜひ楽しんでください。